高円宮賜杯第43回全日本学童軟式野球千葉県予選大会マクドナルド・トーナメントは6月10日、千葉市の中田スポーツセンター野球場で決勝を行い閉幕。八日市場中央スポーツ少年団(匝瑳市)が、10年ぶり2回目の全国出場を期す磯辺シャークス(千葉市)に1対0で勝利し、初めての優勝と全国出場を決めた。昨今の軟式野球の流れと一線を画すような、ロースコアの熱い接戦を特報しよう。
(写真&文/大久保克哉
※記録は編集部)
【初優勝/八日市場中央スポーツ少年団】全国スポ少交流の県予選も8強まで勝ち進んでいる
【準優勝/磯辺シャークス】2013年以来の全国出場はならずも、6年生は12月の卒団までに関東学童など大きな大会がまだ複数残っている
■決勝
磯 辺 000000=0
八日市 10000 X=1
【磯】二田、江川、上村、八田-横山
【八】富永、石井-伊藤
百戦錬磨も想定外の快投
『ピンチの後にチャンスあり』との格言も、驚異的な反発力のバット『レガシー』も、千葉のファイナルにおいては存在感をとんと失った。
1回裏、八日市場が宇井貴浩の内野安打と富永孝太郎主将の左前打でたちまち無死一、三塁とし、三番・石井陽向の左犠飛で1点を先取する。このときに内野に中間守備を指示していた磯辺の小池貴昭監督も、そのままスミイチでの決着は想像できなかったようだ。
「準決勝でかなり打ちましたので、今日は逆に振りが大きく粗くなるかなという心配はありましたけど、三塁も踏ませてもらえないとは…」
1回裏無死一、三塁から八日市場の三番・石井が左へ犠飛。ベンチも茫然と見上げる特大のフライだった
双方、無失策で先攻の磯辺が散発の2安打、後攻めの八日市場が3安打。終始、息をのむような「守備戦」が展開され、試合の流れだけが激しく行き来した。
その一因は、1月に練習試合(磯辺が2連勝)をしていたことと、1週間前の準決勝を同じ会場で続けて戦っていたこと。つまり、互いの戦力や手の内をある程度は知った上での決戦だった。
「磯辺さんはバッティングもいいし、小池監督は百戦錬磨。いろんな揺さぶるようなこともされてくるのは想定していました」
八日市場の宇野貴雄監督が警戒したように、磯辺打線は好投手対策を忠実に実行していった。1回表、先頭の横山輔主将が一度もバットを振らず、3球で見逃し三振したのが象徴的だった。後続の打者も、ファーストストライクに決して手を出さない。
70球で6回二死まで被安打2の4奪三振で、無失点に無四球。八日市場のエース・富永孝太郎主将が圧巻の投球でVに貢献
「球数(1人1試合70球まで)を稼いで、2人目のピッチャー勝負と。まあ、その中でも先発ピッチャーも攻略できればなと思っていたんですけど、初球からバンバン、ストライクを取られてしまって粘らせてももらえず…」
小池監督を脱帽させたのは、八日市場の大型右腕・富永主将だった。角度のある速球を主体に淡々とストライクを投げて、粛々とアウトを重ねていく。「緊張しましたけど、練習でしてきたことを発揮するだけ。絶対に勝ってやると思って、球数も気にせず投げました」。60球を過ぎて迎えた6回も投球に変化はなく、8球で二死を奪ってお役ご免に。準決勝では3回で9安打9得点の磯辺打線に、許したクリーンヒットは1本のみで四死球も失点もゼロという、ほぼ完璧な内容だった。
磯辺は四番・植草大地が唯一クリーンヒットの右前打(2回表)。「内を狙っていたけど仕留めきれなくて(左へ痛烈ファウル)、追い込まれてから広く待って対応しました」
宇野監督が舞台裏の一部を明かしてくれた。
「実は継投も頭にあって、4回を終えたときに富永に『どうする?』と聞いたんですけど、すぐに『このまま行きます!』と俺の目を見つめて返事をしてきたので、そのままに」
そんなエースの快投も、バックの堅守を抜きには語れない。4回には三塁手の石井が痛烈なゴロを、遊撃手の宇井は高く跳ねるゴロを、それぞれグラブに収めてから一塁へ矢のような送球。5回二死一塁のピンチでは、磯辺ベンチが代走と代打のダブルカードに二盗で勝負に出たが、捕手の伊藤瑠生が鋭い送球で阻んでみせた。「(ディレード気味の)スタートも想定していましたし、落ち着いて対応できました」(伊藤)
4回表に相次いで堅守を披露した八日市場の三遊間、石井陽向(⇧写真左)と宇井貴浩(同右)。5回表には捕手・伊藤瑠生が二死一塁から二盗を阻止して攻守交替(⇩写真)
敗軍も無失策で好守連発
磯辺も守備では引けを取らなかった。1回裏に先制犠飛を許した直後には、6-4-3で併殺。2回には痛烈な右越え打から、9-4-5の中継で三塁を狙った打者走者をアウトに(⇩写真上)。4回には痛烈なライナーを好捕した一塁手の八田朝陽が、二死一塁からマウンドに上がって後続を無安打に封じてみせた。
「ここを絶対に抑えて、次の回に1点以上取って絶対に勝つ、という気持ちで投げました」
こう振り返る4番手・八田(⇧写真)の好救援で流れを引き寄せたはずの磯辺に、当初から狙いとした展開がようやく訪れる。
八日市場の投手交代だ。しかし、6回二死で無走者と、反攻には遅きに失した感もあり、八日市場の二番手・石井が三振で締めて初優勝を決めた。「すごく緊張したんですけど、今日は気持ちで抑えることができました」(石井)
●磯辺シャークス・横山輔主将「悔しいです。1点は気持ちの差。いつもはもうちょっと、バッティングでも執念を見せられたと思います。切り替えて、他の大会は全部優勝できるように頑張ります」